賃貸物件のエアコン、使っていると「なんだか臭うな…」「中を覗いたらカビが…」なんてこと、ありますよね。
特に、自分で設置したものではない備え付けのエアコンだと、クリーニングを誰がやるのか、費用は誰が負担するのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
賃貸のエアコンクリーニングは、入居者と大家さん、どちらの責任範囲なのでしょうか。勝手に業者に頼んでしまって、後からトラブルになるのは避けたいところです。
また、退去時に高額なクリーニング代を請求されたらどうしよう、と不安に感じるかもしれません。
この記事では、賃貸のエアコンクリーニングに関する費用負担のルールから、実際にクリーニングを依頼する際の手順や注意点まで、家電量販店員の私が分かりやすく解説していきます。
賃貸のエアコンクリーニング、費用負担の基本

ここでは、賃貸物件におけるエアコンクリーニングの費用負担や責任の所在といった、基本的なルールについて解説していきます。
大家さんと入居者、どちらが何をすべきなのか、しっかり理解しておきましょう。
賃貸エアコンのクリーニングは自己負担?
賃貸物件に備え付けられているエアコンのクリーニング費用は、原則として大家さん(貸主)が負担することになっています。なぜなら、エアコンは物件の「設備」の一部であり、その設備を維持・管理する責任は大家さんにあるからです。
例えば、エアコンが普通に使っていて壊れてしまった場合、修理費用を大家さんが負担するのと同じ考え方ですね。内部の熱交換器の洗浄など、専門的なクリーニングが必要な場合は、大家さんに依頼して対応してもらうのが基本的な流れとなります。
ただし、例外もあります。
それは、入居者(借主)の使い方に問題があって、クリーニングが必要になった場合です。
例えば、タバコのヤニでひどく汚れてしまったり、フィルターの掃除を全くせずにカビを発生させてしまったりした場合ですね。このようなケースでは、入居者の「善管注意義務違反」と見なされ、クリーニング費用を自己負担で支払わなければならない可能性があります。
あくまで通常の使用範囲を超えた汚れに対する責任は、入居者にあると覚えておきましょう。
善管注意義務とクリーニングの範囲
「善管注意義務」という言葉、あまり聞き慣れないかもしれませんね。これは、「善良な管理者の注意義務」の略で、借りている物件や設備を、社会通念上要求される程度の注意を払って使用・管理する義務のことです。
賃貸のエアコンで言えば、入居者が自分でできる範囲のお手入れは、この善管注意義務に含まれると考えられています。
具体的にどこまでが入居者の責任範囲なのでしょうか?
一般的には、エアコンのフィルター掃除がこれにあたります。フィルターは簡単に取り外して水洗いできる部分であり、ここのホコリを定期的に掃除することは、入居者がやるべきメンテナンスです。
多くのエアコンの取扱説明書にも、2週間に1度程度のフィルター掃除が推奨されています。この日常的な手入れを怠ったことで、エアコンの効きが悪くなったり、カビが繁殖したりした場合は、入居者の責任が問われる可能性があります。
一方で、エアコン内部の分解洗浄など、専門的な知識や工具が必要なクリーニングは、大家さんの負担範囲となります。
熱交換器や送風ファンといった部分は、素人が触ると故障の原因にもなりかねません。そのため、これらの専門的なクリーニングは、大家さんに依頼して業者を手配してもらうのが正しい手順と言えます。
エアコンがカビだらけ!責任は誰にある?
エアコンの吹き出し口から黒い点々が見えたとき、本当にがっかりしますよね。このカビだらけの状態、責任は一体誰にあるのでしょうか。
これも基本的には、発生した原因によって判断されます。
まず、建物の構造的な問題や、通常の生活(料理や洗濯物の室内干しなど)で発生する湿気が原因でカビが生えてしまった場合は、経年劣化の一部と見なされ、大家さんの責任範囲となることがほとんどです。
特に、入居してすぐにカビを発見した場合は、前の入居者からクリーニングされていない可能性が高いでしょう。この場合は、ためらわずに大家さんや管理会社に連絡して、クリーニングを依頼してください。
しかし、先ほどもお伝えしたとおり、入居者の善管注意義務違反が原因の場合は、責任の所在が変わってきます。
例えば、フィルター掃除を長期間怠っていたり、結露を放置していたりした結果、カビが大量発生してしまったケースです。このような場合は、入居者がクリーニング費用を負担しなければならない可能性が高くなります。
また、換気を全くしないなど、明らかにカビが発生しやすい環境を作っていた場合も、責任を問われることがあります。カビの発生に気づいたら、まずは自分の使い方が適切だったか振り返ってみることも大切ですね。
勝手にクリーニングする前に管理会社へ連絡
エアコンの汚れや臭いが気になって、「早くきれいにしたい!」と焦る気持ちはよく分かります。ですが、自分で業者を探して勝手にクリーニングを依頼してしまうのは、絶対に避けてください。
必ず、大家さんや管理会社に連絡し、許可を得てから進めるようにしましょう。
連絡が必要な理由は、主に3つあります。
1つ目は、費用負担を明確にするためです。
先述のように、専門的なクリーニングは大家さん負担が原則です。先に連絡すれば、大家さんが費用を負担して業者を手配してくれる可能性が高いです。もし勝手に依頼してしまうと、本来払う必要のなかった費用を自己負担することになりかねません。
2つ目は、故障時の責任問題です。
万が一、クリーニングが原因でエアコンが故障してしまった場合、無断で依頼していると、その修理費用まで入居者が負担させられるリスクがあります。
事前に許可を得ていれば、大家さんや管理会社が提携している業者を選ぶなど、責任の所在がはっきりした状態で依頼できます。
3つ目は、物件の管理上の問題です。
大家さんは、物件の設備を誰がどのように扱ったかを把握しておく必要があります。無断でのクリーニングは、この管理体制を乱す行為と見なされる可能性もあります。
良好な関係を保つためにも、必ず「エアコンのクリーニングをお願いしたいのですが」と一本連絡を入れるようにしてください。
契約書と国土交通省のガイドラインを確認
賃貸のエアコンクリーニングについて考えるとき、最も重要なのが「賃貸借契約書」です。
契約書の中に、エアコンクリーニングに関する特約が記載されている場合があります。例えば、「退去時のエアコンクリーニング費用は借主負担とする」といった内容です。
まずは、ご自身の契約書を隅々まで確認し、そのような特約がないかチェックしましょう。
そして、もう一つ強力な味方になってくれるのが、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
このガイドラインには、賃貸物件の退去時に、どちらがどこまで修繕費用を負担するかの基準が示されています。その中で、エアコンの内部洗浄については、「通常の生活において発生した汚れであれば、貸主(大家さん)の負担で行うことが妥当」と明記されています。
これは、裁判などになった場合でも判例の基準となる、非常に重要な指針です。もし契約書に不利な特約があったとしても、このガイドラインを根拠に交渉できる可能性があります。
例えば、一方的に入居者に不利な内容は、消費者契約法によって無効と判断されるケースもあります。契約書の内容が全てではありません。困ったときは、このガイドラインの存在を思い出して、冷静に対応することが大切です。
退去時のエアコンクリーニング特約は有効?
相場より著しく高額な費用も無効と判断されることがあります。
納得できない場合は、国民生活センターや消費生活センターに相談しましょう。
契約書に「退去時のエアコンクリーニング費用は借主負担とする」という特約があった場合、これは必ず支払わなければならないのでしょうか。
結論から言うと、その特約が必ずしも有効とは限りません。特約が有効と認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があるんです。
国土交通省のガイドラインによると、特約が有効とされる主な条件は以下の3つです。
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示を明確に行っていること。
簡単に言うと、「大家さん側にも特別な理由があり」「入居者もその内容をしっかり理解して、納得した上で契約し」「その意思が書面などで明確になっている」という3点が揃っている必要がある、ということです。
口頭で説明されただけだったり、契約書に小さな文字で書かれているだけだったりした場合は、無効だと主張できる可能性があります。
また、クリーニング費用が相場よりも著しく高額な場合も、無効と判断されることがあります。
もし退去時に特約を理由に費用を請求されたら、まずはその特約が有効なものか、上記の3つのポイントに当てはめて冷静に確認してみてください。
納得できない場合は、すぐに支払いに応じず、国民生活センターや消費生活センターに相談することをおすすめします。
賃貸でエアコンクリーニングを依頼する手順

費用負担の基本がわかったところで、次に気になるのは「じゃあ、実際にどうやってクリーニングを頼めばいいの?」ということですよね。
ここでは、トラブルなくスムーズにエアコンクリーニングを進めるための具体的な手順や注意点を、順を追って見ていきましょう。
まずは大家さん・管理会社に相談しよう
エアコンの汚れや臭いに気づいたら、最初に行うべきアクションは、大家さんまたは管理会社への連絡です。先ほどもお伝えしたように、勝手に業者を手配するのはトラブルのもと。まずは相談から始めましょう。
連絡する際は、ただ「クリーニングしてください」と伝えるだけでなく、エアコンの具体的な状況を説明することがポイントです。
例えば、「吹き出し口に黒いカビが見える」「酸っぱいような臭いがする」「いつから設置されているエアコンですか?」といったように、状況を詳しく伝えると、大家さん側も事態の深刻さを理解しやすくなります。
電話で伝えるのが基本ですが、メールや書面で連絡して、相談した記録を残しておくと、後々のトラブル防止にもつながるのでおすすめです。
相談の結果、大家さんが費用を負担して業者を手配してくれるのが最もスムーズなパターンです。
もし、「費用は負担できない」「自分で業者を探してほしい」と言われた場合でも、必ず「そちらで業者を指定していただけますか? もし自分で探す場合、費用は立て替えて後で精算してもらえますか?」など、費用負担と業者選定について、もう一歩踏み込んで確認することが大切です。
この最初のコミュニケーションを丁寧に行うことが、円満な解決への第一歩となります。
入居前にエアコンの状態をチェックするべき
これは、これから賃貸物件に引越しを考えている方に、ぜひ知っておいてほしい重要なポイントです。
入居が決まったら、荷物を運び込む前に、必ず備え付けのエアコンの状態を細かくチェックしてください。なぜなら、入居時から汚れていたことを証明できれば、退去時のクリーニング費用を請求されるリスクを格段に減らせるからです。
チェックするべきポイントは以下の通りです。
そして、最も重要なのが、チェックした箇所の写真を撮っておくことです。日付がわかるように撮影しておくと、さらに強力な証拠になります。
もし入居時点で汚れや臭いを発見した場合は、すぐに管理会社や大家さんに報告し、クリーニングを依頼しましょう。
「入居したばかりなので…」と遠慮する必要は全くありません。この最初の手間を惜しまないことが、後々の安心につながります。
業者に依頼する場合の料金相場と選び方
大家さんから「自分で業者を探してクリーニングして良い」と許可が出た場合、次は信頼できる業者を探すステップに進みます。
料金はもちろん気になりますが、安さだけで選ぶのは危険です。しっかりとした技術と補償がある業者を選ぶことが、結果的に満足につながります。
まず、エアコンクリーニングの料金相場ですが、機種によって大きく異なります。
お掃除機能付きのエアコンは構造が複雑なため、料金が高くなる傾向にあります。また、消臭抗菌コートなどのオプションを追加すると、別途料金がかかるのが一般的です。
次に、業者選びのポイントをいくつかご紹介します。
私も家電量販店でクリーニングサービスのご案内をすることがありますが、やはりお客様は料金だけでなく、作業の丁寧さや万が一の時の保証を重視される方が多いですね。複数の業者から見積もりを取って、じっくり比較検討することをおすすめします。
クリーニングで故障した場合の責任の所在
細心の注意を払って業者を選んでも、残念ながらクリーニングが原因でエアコンが故障してしまう可能性はゼロではありません。もし、そのような事態になってしまった場合、責任は誰が負うのでしょうか。
まず、大家さんや管理会社に許可を得て、指定された業者や、自分で選んだが報告済みの業者に依頼していた場合。このケースでは、基本的には大家さん側の責任で対応してもらえることがほとんどです。
クリーニング業者も損害賠償保険に加入しているはずなので、その保険を使って修理や交換が行われます。入居者が修理費用を負担する必要はありませんので、すぐに大家さんや管理会社に故障した旨を報告してください。
一方で問題となるのが、大家さんに無断で勝手にクリーニングを依頼して、故障させてしまった場合です。この場合、入居者の過失と見なされ、修理費用を全額自己負担しなければならない可能性が非常に高くなります。
「良かれと思ってやったのに…」では済まされない事態になりかねません。やはり、事前の「報告・連絡・相談」がいかに重要か、お分かりいただけるかと思います。
いずれにしても、故障に気づいたら、まずは作業を行ったクリーニング業者に連絡し、状況を説明して対応を求めることが第一歩となります。
管理会社にクリーニングを断られた時の対処法
大家さんや管理会社にエアコンクリーニングをお願いしたものの、「必要ない」「費用は出せない」と断られてしまうケースも、残念ながらあるようです。そんな時、どうすれば良いのでしょうか。
まずは、なぜ断られたのか、その理由を具体的に確認することが大切です。
「まだ新しいから大丈夫」「フィルター掃除だけしていれば問題ない」といった理由であれば、再度交渉の余地があります。
ここで役立つのが、先ほどもご紹介した国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。このガイドラインを示しながら、「専門的な内部洗浄は、経年劣化によるものであり、貸主様の負担で行うのが一般的とされています」と、冷静に、かつ論理的に説明してみましょう。
感情的に訴えるのではなく、公的な資料を根拠に話すことで、相手の対応が変わる可能性があります。
それでも交渉が決裂し、対応してもらえない場合、選択肢はいくつか考えられます。
一つは、費用は自己負担と割り切って、自費でクリーニングを依頼することです。その際は、必ず「自費でクリーニングを行いますが、よろしいでしょうか」と、一言許可を得ておきましょう。
もう一つは、クリーニングを諦めるという選択です。ただし、明らかにカビがひどいなど、快適な生活に支障が出るレベルであれば、再度粘り強く交渉するか、場合によっては消費生活センターなどに相談することも検討してください。
エアコンクリーニングの適切な頻度は何年?
快適な空気を保つために、エアコンクリーニングはどれくらいの頻度で行うのが理想的なのでしょうか。
これは、お部屋の環境やエアコンの使用頻度によって大きく変わってくるため、一概に「何年に1回」と言い切るのは難しいのが正直なところです。
ただ、一般的な目安としては、「1年~2年に1回」のクリーニングを推奨している業者が多いですね。
特に、以下のような環境でお使いの場合は、1年に1回のクリーニングを検討することをおすすめします。
逆に、寝室など使用頻度が低い部屋であれば、2~3年に1回でも問題ないかもしれません。
一番わかりやすいサインは、やはり「臭い」と「見た目」です。送風口からカビ臭い、酸っぱいような臭いがしてきたら、クリーニングの時期です。
また、吹き出し口を覗き込んで、黒い点々(カビ)が見えるようであれば、早急に対応した方が良いでしょう。
自分のエアコンの状態を定期的にチェックする習慣をつけて、適切なタイミングで大家さんに相談できると良いですね。
総括:賃貸のエアコンクリーニングで知っておくべきこと
それでは最後に、この記事の内容をまとめます。